「それ、AIに聞いてみて」。忙しい先輩の一言を真に受けて、何でもAIに聞く新人が増えています。返ってきた答えをそのまま持ってきて、「自分で調べなさい」と言われて戸惑う。
これは新人ではなく、AIの渡し方の問題です。何をAIに聞き、何を社内で確かめるかを決めずに渡せば、誰でも「全部聞く」側になります。
「全部聞く」の何が困るのか
困りごとは三つに分かれます。
答えの正しさを本人が判断できない。 AIは自信のある口調で外れた答えを返すことがあります。比べる知識がない人ほど、そのまま信じます。
社内の事情を知らない答えで動いてしまう。 道の駅で「出荷者の販売手数料は何%ですか」とAIに聞けば、世間一般の相場が返ってきます。それを出荷者に伝えたら、うちの規約と違うと後で揉めます。
「どこを見れば分かるか」の地図が育たない。 手数料は出荷者規約、営業時間は施設の要綱、補助金は県の募集要項。この対応表が頭に入る前に、AIが先に答えてしまいます。
聞く前の見立てと、持ってくるときの3点セット
新人に渡す型は二つで足ります。
一つ目は「聞く前に、自分の見立てを1行書く」です。「たぶん15%くらい」でも「見当がつかない」でも構いません。見立てを書いてからAIに聞くと、答えとの差に気づけます。この差が調べる力の芽です。
二つ目は、AIに「答え」でなく「確かめ方」を聞くことです。「新潟県の観光関連の補助金はありますか」ではなく、「観光施設向けの補助金を調べるとき、どの機関のどのページを見ればよいですか」と聞きます。候補を自分で開けば、一次情報に届く経験が積めます。
そして上司に持ってくるときは、「AIの答え」「確かめた場所」「自分の判断」の3点セットにしてもらいます。確かめた場所が空欄なら、まだ持ってくる段階ではないと本人が気づけます。
上司側の言い換えひとつ
受け取る側にも工夫があります。「AIに聞いた?」と尋ねると、聞くことが目的になります。代わりに「どこで確かめた?」と聞いてください。この一言で、AIの答えは出発点になります。
もう一つ、社内の事実はAIに聞かない線を引くことです。料金、手数料、営業時間、担当者、契約条件。自社の数字はAIではなく、社内の台帳や規約を見る。8月の記事で書いたAI人材の育て方と同じで、教える範囲を絞るほど定着します。
現場で感じるのは、この問題は新人だけのものではないということです。ベテランも「AIがこう言っていた」で動きかけます。新人に型を渡す過程で、社内の規約や台帳の置き場所が整理される。これは新人が入った職場にしかない機会です。
明日やれる一歩は一つです。新人に「AIの答えを持ってくるときは、確かめた場所を1行添えて」と伝えてください。それだけで、AIは調べる力を奪う道具から、育てる道具に変わります。