「うちの社員はAIなんて使っていない」は、たいてい思い込み

会社としてAIを導入していなくても、社員が個人のスマホで無料のAIチャットを開き、仕事の文章を貼り付けている。これが「シャドーAI」です。悪気はありません。道の駅の売店担当が特産品のPOP文を作る、観光案内所のスタッフが英語の問い合わせメールを訳す。便利だから使っているだけです。

問題は、そこに何を貼り付けているかを会社が把握できないことです。

図1: シャドーAIの構図。会社が把握できる範囲の外側、社員の個人スマホと無料AIチャットの間で仕事の文章がやり取りされている

禁止すると何が起きるか

「AIの業務利用を禁止する」と通達した会社の話を、支援の現場で何度か聞きました。起きたのは利用の停止ではなく、利用の潜伏です。会社のパソコンでは使わず、個人のスマホで使う。上司には言わない。結果、相談できる窓口が消え、貼り付けてはいけない情報の線引きを誰も教えてもらえない状態になります。

たとえば6次産業化の加工品で、取引先との単価交渉メールをまるごと貼り付けて要約させる。無料版のAIは入力内容が学習に使われる設定になっていることがあり、取引先名と金額が外に出る形になります。禁止は、この失敗を防ぐどころか、見えなくするだけです。

公認ルールは3か条で足りる

大企業のような分厚いガイドラインは要りません。現場が覚えられる3つで十分です。

  1. 貼らないもの3種: 顧客名と連絡先、取引の金額、まだ公表していない情報(新商品・人事など)
  2. 使っていいツール: 会社が決めた1〜2種類。有料プランか、入力を学習に使わない設定にしたもの
  3. 出したものは人が読む: AIの文章をそのまま外に出さず、担当者が一度目を通してから使う

図2: 公認ルール3か条。貼らないもの3種、使っていいツール、人が読んでから出す、の3枚のカードで整理

現場目線で言えば「使い方を報告した人を褒める」

伴走支援の中で効いたと感じるのは、ルールの文面より職場の空気です。「AIでこの作業を短縮した」と朝礼で言った人を責めるのではなく、その使い方をみんなに共有してもらう。すると隠れていた使い方が表に出て、貼ってはいけない情報の話も自然と会話に上がります。ルールは紙で決め、運用は空気で守る。これが中小企業の現実的な落としどころだと考えています。

明日やれる一歩

朝礼か休憩時間に「仕事でAIを使ったことがある人は?」と聞いてみてください。手が挙がったら、叱らずに何に使ったかを聞く。それがシャドーAIを公認AIに変える最初の一歩です。