採用にAIを使うこと自体は問題ではない

道の駅の季節スタッフや観光施設の受付など、短期間に多くの応募書類を読む場面は、新潟の中小企業でも増えています。書類の要約や面接質問の下書きにAIを使えば、担当者の負担はかなり軽くなります。問題はAIを使うことではなく、「何を任せ、何を人が決めるか」を決めずに使い始めてしまうことです。

図1: 採用選考でAIに任せてよい「読む係」の作業と、人が担う「決める係」の作業を左右で対比した図

落とし穴1: 応募者情報をそのまま入力してしまう

履歴書には氏名・住所・生年月日・家族構成など、本人が採用のためだけに会社へ渡した個人情報が詰まっています。これを無料のチャットAIにそのまま貼り付けると、サービスによっては入力内容が学習や改善に使われる設定になっている場合があります。応募者は「AIに読ませてよい」とは一言も言っていません。使うなら、氏名や住所を伏せてから要約させること、入力データを学習に使わない設定や契約のサービスを選ぶこと。この2点は最低条件です。

落とし穴2: AIの「おすすめ順」を信じすぎる

AIに「この10人を有望な順に並べて」と頼むと、もっともらしい順位が返ってきます。しかしその根拠は、経歴の書き方の巧拙や文章のパターンであって、現場で必要な力とは限りません。たとえば直売所の接客なら、書類の文章力より、地元の生産者と気持ちよく話せる素直さのほうが大事なことがあります。また、年齢・性別・出身地・通勤距離などを理由に候補から外す判断は、AIが出したものであっても会社の判断として扱われます。厚生労働省は採用選考で本人の適性・能力のみを基準にするよう求めており、AIを介したからといって例外にはなりません。

図2: AIを採用に使う前に確認する3点チェック。個人情報の削除、人が理由付きで合否を決めること、説明できない項目を使わないこと

現場で勧めている線引き

私が伴走先で勧めているのは「AIは読む係、決めるのは人」という単純なルールです。AIには募集要件の整理、匿名化した応募書類の要約、面接質問の下書きまでを任せ、合否や順位付けは人が理由を言葉にして決める。この線引きなら、応募者から「なぜ不採用だったのか」と聞かれても説明できます。逆に、自分の言葉で説明できない判断は、AIが出したものでも採用しない。これが小さな会社にとって一番わかりやすい公平性の基準だと感じています。

明日やれる一歩

採用にAIを使う前に、次の3行を紙に書いて担当者と共有してください。「入力前に氏名・住所・生年月日を消したか」「合否はAIではなく人が理由付きで決めるか」「応募者に説明できない項目を判断材料にしていないか」。この3行があるだけで、AIは怖い道具ではなく、忙しい採用担当者の頼れる読み手になります。