「この温泉は開湯800年の歴史があります」——AIが書いたパンフレットの一文、本当でしょうか。ChatGPTなどの生成AIは、事実でないことを自信たっぷりに書くことがあります。これが「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象です。今回は観光パンフレットの文章づくりを例に、その正体と防ぎ方を整理します。

ハルシネーションとは何か

生成AIは、質問に対して「知識を検索して答える」のではなく、「もっともらしい言葉の続き」を計算して文章を組み立てています。だから知らないことを聞かれても「わかりません」とはあまり言わず、それらしい答えを作ってしまう。悪意のある嘘ではなく、仕組み上避けられないクセです。しかも文章がうまいほど、間違いには気づきにくくなります。

図1: AIは知識を検索せず言葉の続きを計算するため、知らないことでも「それらしい答え」を作ってしまう仕組みの図解

観光パンフレットで起きがちな失敗

道の駅や観光施設の紹介文をAIに下書きさせると、こんな「創作」が混ざることがあります。

  • 営業時間や定休日を勝手に補完する(実際は冬期休業なのに「年中無休」と書く)
  • 存在しないイベントを書く(「毎年8月に花火大会が開催されます」)
  • 由来や歴史をそれらしく作る(開湯年、建立年、名前の由来)
  • 根拠のない肩書きを付ける(「県内最大級」「日本一の○○」)
  • 特産品の収穫時期や成分を間違える(6次産業の商品説明では特に注意)

どれも文章としては自然なので、読み流すと気づきません。

地域の情報ほど「穴埋め」されやすい

新潟で文章づくりの支援をしていて感じるのは、地域のニッチな情報ほどハルシネーションが起きやすいということです。AIの学習データには、大都市や有名観光地の情報は豊富でも、小さな道の駅や集落の情報はわずかしかありません。足りない部分を、AIは「それらしい平均値」で埋めてしまいます。しかも読み手の観光客は現地の事情を知らないため、間違いがそのまま信じられてしまう。誤った営業時間を信じて訪れた方が閉まった施設の前に立ったとき、信頼を失うのは発行した施設の側です。

明日やれる一歩:公開前の「3点チェック」

とはいえ「怖いから使わない」はもったいない。下書きづくりの時短効果は大きいので、公開前に次の3点だけ人間が確認する習慣をつけてください。

  1. 数字と固有名詞(営業時間・料金・日付・距離)は、公式サイトか担当者に突き合わせる
  2. 「最大級」「日本一」などの格付け表現は、根拠を示せなければ削る
  3. 由来・歴史は、確認できる資料がなければ書かない(AIに「その出典は?」と聞き返すのも有効)

図2: 公開前の3点チェック——数字と固有名詞の突き合わせ、根拠のない格付け表現の削除、資料のない由来・歴史は書かない

AIに任せてよいのは文章の骨組みまで。事実の最終確認だけは人間が握る——この線引きさえできれば、ハルシネーションは十分付き合える相手です。