「この加工品の卸価格、相場はいくら?」「団体向けの体験料金はどのくらいが妥当?」。生成AIに聞くと、もっともらしい数字がすぐ返ってきます。ただ、その数字をそのまま見積や価格表の根拠にするのは危険です。理由は「計算が間違うから」ではありません。AIが答えている「価格」の正体が、あなたの会社の価格とは別物だからです。

AIが答える「相場」はどこから来ているのか

生成AIは、学習した大量の文章から「それらしい数字」を組み立てて答えます。そこには次のものが含まれていません。

  • あなたの会社の原価(材料費・人件費・送料・手数料)
  • 新潟の地域事情(冬季の物流費、繁忙期の人手、地元の競合価格)
  • 最新の状況(今年の原料高、値上げ後の同業者の価格)
  • 数字の出どころ(どの年の、どこの地域の、何を根拠にした価格か)

つまりAIの回答は「全国のどこかの、いつかの時点の、平均っぽい数字」です。聞き方を少し変えると別の数字が返ってくることも珍しくありません。

図1: AIが答える相場には自社の原価・地域事情・最新状況・数字の出どころが含まれていない

ありがちな失敗シナリオ

道の駅で新しいジャムを作り、AIに「手作りジャムの適正価格」を聞いたら580円と答えられたとします。その数字で価格表を作ったあと、地元産の果実と少量生産の原価を積み上げてみたら、利益がほとんど残らなかった。こうした失敗は、AIが嘘をついたのではなく、原価を知らないAIに原価込みの答えを求めた結果です。

もうひとつ危ういのは、お客様への説明です。「AIに聞いたらこの価格でした」は、値引き交渉の場面で根拠になりません。逆に、取引先がAIの数字を根拠に「相場より高い」と言ってきたとき、自社の原価と実績で説明できなければ押し切られます。価格の根拠は、聞かれたときに自分の言葉で答えられるものでなければ意味がないのです。

見積づくりでAIを「使う」なら、役割を分ける

AIを見積から締め出す必要はありません。数字を決める役ではなく、抜け漏れを洗い出す役にすると力を発揮します。

  • 見積項目の洗い出し(「体験プログラムの料金設定で考慮すべき費目を挙げて」)
  • 原価の内訳の整理(自社の数字を入力し、表に整えてもらう)
  • 価格の説明文づくり(決めた価格の理由をお客様向けの言葉にする)

数字そのものの根拠は、自社の原価計算と過去の受注実績、そして実際に確認した同業者の価格に置きます。AIには「何を確認すべきか」を聞き、「いくらにすべきか」は自分で決める。この線引きさえ守れていれば、見積づくりの時間は短くなり、説明の言葉も整います。

図2: AIには何を確認すべきかを聞き、いくらにするかは自社の原価・実績・競合確認で決める

明日やれる一歩

次に見積や価格表を作るとき、AIに聞く前に「この価格の根拠を聞かれたら、何と答えるか」を一行書いてみてください。原価、過去の実績、確認した競合価格。このどれかで答えられるなら、AIの数字は参考情報として使って構いません。答えられないなら、それはAIではなく、自社の数字を見直すタイミングです。