仕事の大半は「調べる」に使われてきた
新しい販路を探す、補助金を検討する、イベントの企画を立てる。こうした仕事は、大きく「調べる」「決める」「動く」の3工程に分けられます。そして多くの現場では、最初の「調べる」が時間の半分以上を占めてきました。
似た事例を検索し、資料を読み、比較表を作る。ここに丸一日かけた末に、決めるのは会議の最後の5分。動くのは翌週から。これが生成AI以前の、ごく普通の配分でした。
生成AIが変えたのは、この最初の工程の値段です。「新潟県内で冷凍の加工品を扱う直売所の例を5つ」「この補助金の対象経費を表にして」と頼めば、たたき台は数分で出てきます。正確さの確認は残るとしても、ゼロから集める時間は大きく縮みました。
配分は「調べる」から「決める」へ移る
では、浮いた時間はどこへ行くのか。放っておくと、そのまま「もっと調べる」に流れます。AIは何度聞いても嫌な顔をしないので、比較の軸が5つから15に増え、決める材料が増えたはずなのに、かえって決められなくなる。これが最初に起きることです。
意図して配分を変えた会社では、工程の重さが次のように動きます。
| 工程 | 生成AI以前 | 生成AI時代 | 変わる理由 |
|---|---|---|---|
| 調べる | 6割 | 2割 | たたき台はAIが数分で出す。人は確認と補足に回る |
| 決める | 1割 | 5割 | 材料が増えた分、基準を決めて選ぶ仕事が重くなる |
| 動く | 3割 | 3割 | 文面や資料作りは速くなるが、試す・売る・聞くは人の時間のまま |
数字は目安ですが、方向は明確です。調べる時間が縮んだ分を「決める」に移す。ここを意識しないと、AIを入れても仕事の速さは変わりません。
現場で繰り返し見る3つの判断ミス
1. 調べ終わりがない。 検索で1時間かかっていたことがAIで5分になると、人は「もう少し聞いてみよう」を10回繰り返します。合計は同じ1時間で、しかも決まっていない。調べる工程に締切がないことが原因です。
2. AIの答えで決めた気になる。 「この商品はふるさと納税向きです」とAIが言えば、それが結論のように見えます。しかしAIは自社の在庫も、担当者の手が空く時期も知りません。決めるとは、AIが知らない自社の事情と照らして選ぶことで、AIの出力を読むこととは別の仕事です。
3. 動く前に完璧を求める。 資料がきれいに作れるようになると、企画書を磨くことが目的化します。道の駅の新商品なら、企画書を3回直すより、週末に試食台を1つ出して反応を見るほうが、次に決める材料になります。
新しい配分の型:基準を先に書き、調べるに締切を置く
3つのミスに共通するのは、「決める」の準備を後回しにしていることです。そこで工程の順番を少し組み替えます。
- 決める基準を先に1行で書く。 「今期は初期費用10万円以内で、担当1人で回せる販路を1つ選ぶ」。調べる前にこれを書くと、AIへの質問が絞れ、答えの取捨選択も速くなります。
- 調べるに時間の上限を置く。 AIとのやり取りは30分まで、と決めて始めます。上限に達したら、足りない情報は「不明」として次へ進む。不明のまま決めるのが不安なら、それは調べる量ではなく、基準が曖昧な印です。
- 決めるは、AIに反対させてから。 候補が絞れたら「この案の弱点を3つ挙げて」と聞き、それでも選ぶ理由を自分の言葉で書きます。ここが人の仕事の中心です。
- 動くは小さく1回。 全店展開ではなく、1棚・1週間・1媒体で試す。結果が次の「調べる」の材料になり、次の一巡が短くなります。
道の駅・6次産業の場面に置き換える
たとえば6次産業の加工所が、新しい販路を検討する場面です。
以前は、ECモール各社の手数料を調べ、先行事例を探し、比較表を作るのに数日かけていました。今はAIに「月の出荷量50件、常温商品、担当1人という条件で、向いている販路を3つ、手数料と手間の目安つきで」と頼めば、30分で表が出ます。
ここからが配分の変わり目です。表の数字は公式サイトで確かめる。次に「担当1人で回せるか」という基準で1つに絞る。AIに「この販路で半年後に困りそうなこと」を挙げさせ、それでも選ぶ理由を書く。そして最初の1ヶ月は10商品だけ登録して、注文が来る曜日と問い合わせの内容を見る。
丸一日の調べものが、30分の調べ、1時間の決め、1ヶ月の小さな実験に変わります。総時間が減ることより、決めるまでの日数が縮み、実際の反応を早く見られることに価値があります。
「決める」の時間を、予定表に先に入れる
配分を変えるうえで、一番の障害は意志の弱さではなく、予定の組み方です。調べる時間は自然と埋まりますが、決める時間は誰も予定に入れません。だから決めるは会議の最後の5分に押し込まれます。
この点で、9月に紹介した「AIに反対意見を言わせる壁打ち」は、決める工程を予定表に置くための道具として使えます。反対意見を聞く30分を先に確保しておけば、調べる工程は自然とその前に終わります。
明日やれる一歩
明日、今抱えている検討ごとを1つ選び、調べ始める前に「決める基準」を1行、紙かメモに書いてください。そして調べる時間の上限を決めて、AIに最初の質問をします。
上限が来たとき決められなければ、足りなかったのは情報ではなく基準です。その1行を書き直すところから、配分は変わり始めます。