なぜ「事業」ではなく「工程」で見るのか

6次産業化は、生産・加工・販売をつなぐ仕事です。「うちにAIは使えるか」と事業全体で考えると、判断がぼやけます。見るべき単位は工程です。同じ加工所の中にも、AIが役に立つ工程と、触らないほうがよい工程が同居しているからです。

私は次の3つの問いで工程を仕分けています。

  • 言葉・数字・文書で完結する作業か
  • 間違えたとき、出荷や公開の前に人が気づけるか
  • 同じ作業が週に何度も繰り返されるか

AIは文章の下書き、表の整理、分類が得意です。一方、味や香りの判断、食品衛生に直結する最終確認は、現場の人の感覚と責任が欠かせません。この線引きが、導入の失敗を減らします。

図1: 工程を仕分ける3つの問い。3つとも「はい」ならAIを試す候補になる

工程別の見極め表

新潟の米菓、漬物、枝豆加工、酒粕を使った加工品などを例に、工程ごとの目安を表にしました。

工程 AIの向き不向き 理由
商品説明・POPの下書き 効く 文章作業で、人が最終確認できる
直売所の売上集計・欠品傾向の整理 効く 数字の整理が中心
SNS投稿案・問い合わせ返信案 効く 繰り返しが多く、下書きで十分
補助金・申請書の下書き 条件付き 骨子はAI、数字と要件は人が確認
加熱温度・殺菌・賞味期限の決定 効かない 衛生の責任は人にある
味の調整・熟度の見極め 効かない 感覚そのものが商品の価値
生産者との関係づくり・値決め 効かない 信頼が土台の仕事

「効く」工程に共通するのは、間違っても人が直せることです。「効かない」工程は、間違いが商品や信用に直結します。

たとえば道の駅の直売コーナーで、閉店後に担当者が手書きの売上メモを見ながら、翌日の品出しを考える場面があります。この「メモを表にまとめ、売れ残りやすい品を洗い出す」作業は、AIが得意な整理仕事です。表が多少ずれても、担当者が見れば気づけます。ところが「この漬物は今日の気温で足が早いか」という判断は、そうはいきません。現場の経験が必要で、誤りが出荷後に発覚するからです。同じ売り場の中でも、工程ごとに分けて考えることが大切です。

現場でよくある判断ミス

1. いちばん大変な工程から入れてしまう。 加工所でいちばん負担が大きいのは、仕込みや手作業であることが多いものです。しかしそこはAIが効きにくい工程です。「つらさ」と「効きやすさ」は別物なので、まずは事務や発信の側から始めるほうが成果が出ます。

2. 表示や期限をAIの回答のまま使う。 原材料表示や賞味期限は法令や自社の検査結果に基づきます。AIの文面は下書きとして使い、最終判断は公的な資料や保健所への確認で行います。

3. 繁忙期に始めて、現場が使わず終わる。 観光シーズンや収穫期に新しい道具を入れても、触る余裕がありません。雪で来客が落ち着く冬場など、手が空く時期に小さく試すと定着します。

4. 使い方を一人だけが知っている状態にする。 詳しい担当者が1人で試し、その人が休むと止まる、という例はよくあります。回避のしかたは簡単で、AIに頼んだ内容と、直した箇所を共有メモに残すことです。誰が見ても同じ手順で再現できれば、工程として定着します。

迷ったときの意思決定フロー

3つの問いを順番にたどれば、工程ごとの結論が出ます。

  1. 文書・数字で完結するか。「いいえ」なら人が担当する。
  2. 間違いを出荷前に人が確認できるか。「いいえ」なら人が担当する。
  3. 週に何度も繰り返すか。「いいえ」なら後回しにする。

すべて「はい」の工程だけが、AIを試す候補になります。候補が複数あれば、毎週いちばん時間を取られているものを選びます。

図2: 意思決定フロー。3つの問いに順に答え、すべて「はい」ならAIを試す

明日やれる一歩

明日は、1週間の仕事を工程ごとに書き出し、3つの問いに○×をつけてください。紙1枚で十分です。○が3つそろった工程が見つかったら、その作業を1つだけAIに頼んでみます。たとえば商品説明の下書きなら、特徴を3行渡して、3案出してもらうところからです。

自社の工程を仕分けるのは、AIを入れる前の大切な設計作業です。この型があれば、何を任せて何を人が守るのかを、自社で決めていけます。