なぜ「地方メディア向けの型」が要るのか

道の駅の新しい加工品、農園の限定ジャム、観光施設の新メニュー。こうした商品は、全国向けのプレスリリース配信サービスに流すよりも、地元の新聞・ローカルTV・ケーブルテレビ・フリーペーパーに直接送るほうが取り上げられる可能性が高い場面が多いです。

理由は単純で、地方メディアが探しているのは「地域の人が出てくる話」だからです。記者の机には毎日リリースが山のように届きます。その中から選ばれるのは、商品スペックが詳しいものではなく、「見出しが1本で浮かぶ」「取材に行けばすぐ絵になる」ものです。

ところが現場でよく見るリリースは、商品説明を全部詰め込んで、肝心の「誰が・なぜ・地域とどう関わるか」が抜けています。AIで書くときも、ここを型に組み込んでおかないと、同じ失敗を高速に量産することになります。

図1: プレスリリース作成の5ステップ。AIに任せるのはたたき台と見出し案で、裏取りと送付先調整は人が行う

全手順(5ステップ・合計45分ほど)

  1. 素材メモを箇条書きで作る(人・10分) 商品名、発売日、価格、販売場所、開発のきっかけ、関わった人(生産者・職人・スタッフ)、地域とのつながり、数字(原料の産地・生産量・限定数)、取材可能な日時と場所、担当者名と連絡先。文章にしなくて構いません。ここが薄いと、AIは空欄を想像で埋めます。
  2. AIに地方メディア向けの型でたたき台を書かせる(AI・5分) 下のプロンプトに素材メモを貼り付けて実行します。
  3. 数字と固有名詞の裏取り(人・15分) 出てきた文章の数字、地名、人名、「県内初」などの表現を1つずつ元資料と突き合わせます。AIは「それらしい数字」を作ることがあるため、この工程は省けません。
  4. 見出しを3案で再生成して選ぶ(AI・5分) 本文は固定したまま「見出しだけ3案」と指示します。記者は見出しで読むかを決めるので、ここに時間をかける価値があります。3案は「人が主役の案」「季節や地域行事に絡めた案」「数字を前に出した案」と切り口を変えて出させると、比べやすくなります。
  5. 送付先ごとに冒頭2行を差し替える(人・10分) 新聞なら「地域の背景」、TVなら「撮影できる場面」、フリーペーパーなら「読者が買いに行ける情報」を冒頭に寄せます。本文は共通で構いません。送るタイミングは発売の2〜3週間前が目安で、月刊のフリーペーパーはさらに早めに動きます。送付先が分からなければ、各社のサイトにある「情報提供」窓口や、市町村の記者クラブ経由という方法もあります。

そのまま使えるプロンプト全文

あなたは新潟の地方紙・ローカルTVに毎週リリースを送っている広報担当です。
以下の素材メモから、地方メディア向けのプレスリリースを日本語で作成してください。

【構成(この順で)】
1. 見出し(30字以内。商品名より「地域の人と物語」を優先)
2. リード文(3行以内。誰が・何を・いつから・どこで)
3. 開発の背景(地域とのつながり、きっかけ、関わった人の声を1つ入れる)
4. 商品概要(名称・価格・販売場所・販売開始日・限定数を箇条書き)
5. 取材のご案内(撮影できる場面・日時・場所を具体的に)
6. 問い合わせ先

【ルール】
- 素材メモにない数字・実績・「初」「唯一」などの表現は書かない。不明な箇所は【要確認】と書く
- 誇張表現や言い切りの強い副詞は使わない
- 専門用語は一般の読者が分かる言葉に置き換える
- 全体をA4用紙1枚(800字前後)に収める

【素材メモ】
(ここに箇条書きのメモを貼る)

このプロンプトの要点は「素材メモにないことは書かず【要確認】と書け」という一行です。これを入れるだけで、後の裏取り工程で探すべき箇所が自動で印になり、確認漏れがかなり減ります。使うAIはChatGPT、Claude、Geminiなど、普段使っているもので構いません。出てきた文章が硬すぎるときは「道の駅の店員が常連客に話すような口調で」と追加で指示すると、地方紙の文体に近づきます。

現場でよくある落とし穴

図2: 地方メディアの記者が拾うリリースと拾わないリリースの比較。商品説明の詰め込みより、地域の物語と取材のしやすさが重要

「県内初」「日本初」をAIが勝手に足してくる。 素材メモに「新潟では珍しい」と書いただけで、たたき台が「県内初」になっていることがあります。根拠がないまま送ると、記者からの確認で信用を落とします。裏取りできないなら「新潟では数少ない」など事実の範囲に戻します。

主語が会社になり、人が消える。 「当社は〜を発売します」で始まる文章は、記者にとって絵が浮かびません。「地元の農家3軒と一緒に3年かけて」「道の駅のスタッフが試作を重ねて」と、人を主語に戻すだけで扱いが変わります。AIには「関わった人の声を1つ入れる」と指示しておくのが効きます。

取材の案内が抜ける。 商品の話は書けても、「いつ・どこで・何が撮れるか」が無いリリースが多いです。ローカルTVは撮影できるかどうかで判断するので、収穫の様子、製造の現場、店頭の様子など、具体的な場面と日程を必ず書きます。

A4用紙1枚を超える。 熱が入るほど長くなりますが、記者が最初に読むのは見出しとリード文の3行だけです。詳しい商品説明や過去の受賞歴は、別紙や自社サイトへのリンクに逃がして、本文は800字前後に収めます。

手順の順番を変えてしまう。 「まずAIに書かせてから素材を考える」と、AIの文章に引きずられて自社の事実を後付けする形になり、結局書き直しになります。素材メモを先に作る順番は、時短のためではなく、事実を守るための順番です。

明日やれる一歩

まずはステップ1の「素材メモ」だけを10分で書いてみてください。商品名、価格、販売場所、関わった人、地域とのつながり、取材できる場面。この6項目が箇条書きで埋まれば、あとはプロンプトに貼るだけです。

一度この型でリリースを出せば、次の商品からは素材メモの差し替えだけで済みます。AIと設計の型があれば、広報担当がいない小さな事業所でも自社で回せる業務のひとつです。