なぜ月次報告がAI下書きの最初の一歩に向いているのか

道の駅や観光施設、6次産業の加工所では、月初になると売上の集計と報告資料づくりに半日から1日が消えます。数字そのものはレジや販売管理システムから出ているのに、「文章にする」「前月・前年と比べて一言添える」「来月の注目点を書く」という作業が人の手に残っているからです。

月次報告には、AIに任せやすい条件がそろっています。毎月ほぼ同じ構成で、比較する相手(前月・前年同月)がはっきりしていて、読み手(社長・出資者・指定管理の自治体担当者)も固定されています。こうした「型が決まっている仕事」は、AIが最も安定して力を出せる領域です。

ただし、数字の解釈まで丸投げすると、現場を知らない人が書いたような当たり障りのないコメントが混ざります。そこでこの記事では、「数字と事実は人が用意し、文章化だけをAIに任せる」という線引きで手順を組みます。この線引きさえ守れば、経理担当が変わっても報告の品質がそろいます。

図1: 月次売上報告をAIで下書きする5ステップ。集計表と現場メモを人が用意し、AIが文章化し、人が赤入れして見本として保存する流れ

手順:5ステップで下書きを出す

  1. 集計表を1枚にまとめる(人) 部門別(直売所・レストラン・加工品・イベント・テナント等)の当月売上・前月・前年同月を、Excelやスプレッドシートで1つの表にします。列は「部門/当月/前月/前年同月」の4列で十分です。増減率の列も、この段階で表計算側に足しておくと後が楽です。
  2. 現場メモを3行書く(人) 「連休で観光バスが多かった」「加工品は原料不足で欠品が出た」「雨の週末が2回あった」のように、数字の背景を箇条書きで用意します。ここはAIには分からない部分で、報告の質を決めます。3行で足りなければ5行まで。
  3. プロンプトに貼って実行する(AI) 下記のプロンプト全文の指定箇所に、表とメモを貼り付けて送ります。ChatGPTでもClaudeでもGeminiでも、同じ文面で動きます。
  4. 赤入れする(人) 事実と違う推測、数字の読み違い、言い回しの違和感を直します。慣れれば5〜10分です。
  5. 型として保存する(人) 修正した完成版を「先月の見本」として次回のプロンプトに添付します。月を追うごとに手直しが減り、自社の様式に近づいていきます。

プロンプト全文(コピーしてそのまま使えます)

あなたは新潟県内の観光・物販施設の経理担当アシスタントです。
以下の売上集計表と現場メモをもとに、経営者向けの月次売上報告の下書きを作成してください。

【条件】
- 構成は「1. 全体総括(3行)」「2. 部門別の動き(各部門2〜3行)」「3. 来月の注目点(箇条書き3点)」の順にする
- 数字は表の値をそのまま使い、増減率は表にある値を使う(表にない計算は行わない)
- 数字の背景説明は【現場メモ】に書かれた内容だけを根拠にし、メモにない原因を推測で書かない
- 推測が必要な箇所は文末に「(要確認)」と付けて、断定しない
- 「劇的」「絶対」など強い表現は使わず、事実を淡々と書く
- 全体で800字以内、Markdown形式で出力する

【売上集計表】
(ここに部門/当月/前月/前年同月/増減率の表を貼る)

【現場メモ】
(ここに3〜5行の箇条書きを貼る)

【先月の見本】※2回目以降に貼る
(ここに前回の完成版を貼る。文体と構成をこれに合わせる)

現場でよくある落とし穴と、この順番にした理由

図2: 落とし穴と対策の対比表。メモを省く・増減率をAI任せ・完璧な様式を狙う、の3つに対して、メモを添える・表計算で率まで出す・汎用プロンプトで1回出す、で対応する

落とし穴1:メモを省略して表だけ渡す。 AIは数字の増減に「理由らしきもの」を自動で補います。「天候不順の影響と考えられます」のような一文が入り込み、それが報告書として出回ると、現場を知っている人が読んだ瞬間に信頼を落とします。プロンプトで「メモにない原因は書かない」と縛っているのはこのためです。メモが3行あるだけで、出てくる文章は見違えます。

落とし穴2:増減率の計算をAIに任せる。 表に前年同月の値が抜けている部門があると、AIはそこを推定で埋めてしまうことがあります。しかも、もっともらしい数字で埋めるので気づきにくい。計算はスプレッドシート側で済ませ、率の列まで表に入れてから渡す方が安全です。AIの仕事は計算ではなく文章化、と割り切ります。

落とし穴3:最初から完璧な様式を求める。 自社の報告様式にぴったり合わせようとして、条件を20行も30行も書き足し、プロンプトが破綻するケースをよく見ます。まずは上の汎用プロンプトで1回出し、赤入れした完成版を次回「見本」として添える方が、結果的に早く自社の型に近づきます。文章の見本は、条件の羅列より強い指示になります。

手順を「人が数字とメモを用意→AIが文章化→人が赤入れ」の順にしているのは、責任の所在をはっきりさせるためです。数字と事実は人が持ち、言い回しだけをAIが担う。この線引きがあると、社内の誰が使っても報告の品質がそろい、「AIが書いたから間違っていた」という言い訳も生まれません。

明日やれる一歩

明日の朝、先月分の売上表を「部門/当月/前月/前年同月」の4列に整えて、現場メモを3行だけ書いてください。この2つがそろえば、プロンプトに貼るだけで下書きが出ます。最初の1回は自分で赤入れして、それを「見本」として保存するところまでが1セットです。2か月目からは、報告資料づくりが「書く仕事」から「確認する仕事」に変わっているはずです。