「営業時間は何時までですか」「ペットは連れて入れますか」——道の駅や観光施設には、同じ質問が毎日のように届きます。電話とSNSの返信に追われる時間を減らす手段として注目されるのがチャットボットですが、いきなり業者に発注したり、全部の質問に答える完璧なものを目指したりすると、たいてい途中で止まります。この記事では、プログラミングなしで試作品を作り、小さく検証するまでの全手順をまとめます。AIと設計の型があれば、自社で十分に構築できます。
いきなり本格導入しない。「PoC」という考え方
PoC(ピーオーシー)は「概念実証」と訳される言葉ですが、要するに「本格導入の前に、小さく作って本当に役立つか確かめる」ことです。
チャットボットは、作ること自体よりも「答えの中身を誰が用意し、誰が更新し続けるか」でつまずくケースが目立ちます。そこで最初のゴールを思い切って下げます。「よくある質問20個だけに答える試作品を、2週間だけ動かす」。これなら費用も手間も小さく、やめる判断も簡単です。
全手順(6ステップ)
- よくある質問を20個書き出す。 電話メモ、SNSのメッセージ、スタッフへの聞き取りから集めます。「多い順」が鉄則です。営業時間・アクセス・駐車場・トイレ・ペット可否・支払い方法あたりは、どの施設でもまず上位に入ります。
- 1問1答のFAQ表を作る。 スプレッドシートに「質問」「答え」「情報の元(公式サイト・料金表など)」の3列を作り、20行埋めます。答えは書類の文章ではなく、電話で聞かれたら口頭で答える言葉で書きます。
- ノーコードのチャットボット作成ツールを選ぶ。 ツール名は流行り廃りがあるのであえて挙げませんが、選ぶ基準は4つです。「日本語で使える」「FAQ表を読み込ませられる」「無料か少額で試せる」「答えられない質問への対応を設定できる」。この4つを満たせば、試作品にはどれでも足ります。
- AIへの指示文を設定する。 多くのツールには「AIの役割・ルール」を書く欄があります。次の指示文を、施設名と電話番号を差し替えてそのまま貼ってください。
あなたは新潟県の道の駅「○○」の案内係です。
以下のルールを必ず守って、お客様の質問に答えてください。
【ルール】
- 回答は、登録されたFAQの内容だけを根拠にすること
- FAQにない質問には推測で答えず、「その件は分かりかねますので、
お電話(000-000-0000)でお問い合わせください」と案内すること
- 営業時間・料金・予約の可否は、FAQの記載どおりに答え、言い換えないこと
- 丁寧で親しみやすい話し言葉で、1回の回答は3文以内にすること
- クレームや体調不良など緊急性のある内容には、回答せず
すぐに電話窓口を案内すること
- 社内で「意地悪テスト」をする。 公開前に、スタッフ2〜3人でFAQにない質問・あいまいな質問・クレーム風の質問をわざとぶつけます。ここで変な答えが出たら、FAQと指示文を直します。
- 限定公開して2週間記録する。 ホームページの目立たない場所やSNSのプロフィール欄から小さく公開し、「答えられなかった質問」を週1回まとめてFAQに追加します。2週間後、電話が減ったか・お客様が使ってくれたかを見て、続けるかを決めます。
現場でよくある落とし穴
FAQを書き言葉で作ってしまう。 お客様は「犬はだめ?」「雪の日やってる?」と話し言葉で聞きます。質問欄には言い換えパターンも足しておくと正答率が上がります。
「答えられない時」を設計しない。 チャットボットの信頼を壊すのは、答えられないことではなく、それらしく間違えることです。指示文にある「FAQにないことは答えず電話へ案内」の一行が、実は全体で一番大事な行です。
完成をゴールにする。 冬季の営業時間、終了したイベント——情報は必ず古くなります。「毎週金曜に◯◯さんがFAQを見直す」と当番を決めるところまでがPoCです。
なぜツール選びが3番目なのか
多くの人はツール探しから始めますが、この手順ではあえて3番目に置きました。質問リストとFAQ表が先にあれば、どのツールにも載せ替えられるからです。ツールは器にすぎず、自社の資産になるのは「よくある質問と答えの一覧」のほう。仮にチャットボットをやめても、FAQ表は新人教育や電話対応のマニュアルとしてそのまま残ります。
明日やれる一歩
ツールを触るのは後回しでかまいません。まず電話メモとSNSの受信箱を見返して、よくある質問を10個書き出すところから始めてください。それが集まった時点で、この取り組みの半分は終わっています。