なぜ「量産」より先に「見本」なのか
道の駅や直売所の商品ページ、観光施設のお土産一覧。数十〜数百点の商品説明文を書くのは骨の折れる仕事で、「AIに任せれば一気に片付く」と考えるのは自然です。ただ、現場でよく起きるのが「1本ずつは悪くないのに、並べると店の顔がバラバラ」という状態です。あるページは丁寧語、別のページは砕けた口調、ある商品だけ言葉が大げさ。原因はAIの性能ではなく、「うちの店はどう語るか」を先に決めていないことにあります。
特に6次産業の加工品やネット販売のページでは、商品数が増えるほどこのバラつきが目立ちます。お客さんは1本の説明文ではなく、一覧を眺めて「この店、信頼できそうか」を判断しているからです。口調がそろっているだけで、同じ商品でも受ける印象は変わります。
そこで量産の前に1枚だけ作るのが「トーン見本」です。語り手・語尾・使う言葉・使わない言葉・1本の型を、見本文つきで固定したシートです。これをプロンプトに毎回添えるだけで、100本書いても同じ店員が書いたような統一感が出ます。
トーン見本テンプレート(そのまま埋めて使う)
以下をメモ帳やスプレッドシートに貼って、5つの項目を埋めてください。
【トーン見本シート】
1. 語り手のキャラ:
例)地元をよく知る店員が、初めて来たお客さんに1分で説明する感じ
2. 文体・語尾:
例)です・ます調。「〜ですよ」「〜してみてください」は1本に1回まで
3. 使う言葉/使わない言葉:
使う:産地名、作り手の一言、食べ方の提案
使わない:「絶品」「究極」「〜No.1」、根拠のない効能表現
4. 1本の型(順番と文字数):
①ひと言でどんな商品か(30字)
②産地・作り手の背景(60字)
③おすすめの食べ方・使い方(60字)
④保存方法や注意点(30字)
5. 見本文(正解例を1本、手書きで):
ここに、上の型どおりに書いた実物を1本入れる
各項目の意図を補足します。1番の「語り手」を最初に置くのは、誰が話しているかが決まると語尾や言葉選びが自然に決まるからです。「店員」なのか「作り手本人」なのかで、同じ商品でも書き方は変わります。3番の「使わない言葉」は、AIが好んで使いがちな大げさな表現をあらかじめ止める役割です。景品表示法の観点でも、根拠のない効能や「一番」の表現は避けた方が安全です。4番の「型」は、文字数まで決めておくと一覧に並べたときの長さがそろい、ページ全体が読みやすくなります。
そして最も重要なのが5番の「見本文を手書きする」ことです。ルールを言葉で並べるより、正解を1本見せた方がAIは忠実に真似します。ここだけは人が書いてください。
見本を使って量産するプロンプト
見本シートが埋まったら、次のプロンプトに貼り付けて使います。
あなたは新潟の道の駅の商品説明文を書く担当者です。
以下の「トーン見本シート」を厳守し、商品情報から説明文を1本書いてください。
# トーン見本シート
(ここにシート全文を貼る)
# 商品情報
商品名:
産地・作り手:
特徴(箇条書き):
食べ方・使い方:
保存・注意点:
# 出力条件
- 見本文と同じ順番・同じ文字数配分で書く
- 「使わない言葉」は一切使わない
- 商品情報にない事実は書かない(分からない項目は空欄にする)
使い方の手順は次の通りです。
- 商品情報を、売れ筋・定番・季節物から1つずつ計3点分だけ用意する
- 上のプロンプトで3本を生成し、見本文と横に並べて読む
- 「語尾が違う」「順番がずれた」などのズレを見つけたら、プロンプトではなく見本シート側に1行追記する
- 3本が見本と並べても違和感がなくなったら、残りの商品を同じプロンプトで回す
3番が肝心です。ズレをその場の指示で直すと、次の商品でまた同じズレが出ます。シートに書き足しておけば、以降のすべての生成に効きます。
現場でよくある落とし穴
- 見本文を書かずにルールだけ渡す。「丁寧に」という指示は、AIも人も受け取り方が違います。
- 最初から100本回す。まず3本だけ出し、見本とのズレをシート側で直してからにする。
- 商品情報が薄いのに書かせる。情報不足はAIが「盛る」原因になります。原材料や産地など、事実の箇条書きを先に集める方が結果的に早いです。
- 見本文を「うまい文章」にしようとする。目指すのは名文ではなく、自店の普段の接客と同じ温度の文章です。
なぜこの順番が効くのか
見本→3本試作→量産という順番は、修正コストが最も安い場所で直すためです。100本出したあとに語尾を直すのは100回の手戻りですが、見本の段階なら1行の修正で済みます。また、見本シートは商品説明文以外にも、SNS投稿やチラシの原稿、観光客向けの掲示物にそのまま流用でき、店の「声」を社内で共有する資産になります。担当者が変わっても、季節スタッフが手伝う日でも、同じ口調で語れることが小さな店の大きな強みになります。
明日やれる一歩
今日〜明日にやるのは1つだけ。いま売れている商品を1つ選び、シートの5番「見本文」を自分の言葉で1本書くことです。ルール項目は、見本文を眺めながら後から埋めれば十分です。この1本ができれば、残りの商品はAIと設計の型があれば自社で量産できます。