1業務ずつ試すだけでは、全体像が見えない
AI導入の相談で多いのは「どの業務から始めるか」という問いです。7月の記事「『まず1業務だけ』のAI導入、最初の対象業務の選び方の型」では、最初の1つは効果の大きさではなく答え合わせの速さで選ぶと書きました。8月の記事「『ツールを増やす』より『業務を減らす』」では、やめる・減らす・任せる・残すの順に仕分ける話をしました。
ただ、1業務ずつ試していくと、半年後に「結局うちはAIをどこまで使う会社なのか」を誰も説明できなくなります。担当者ごとに使う場所がばらばらで、任せてよい仕事と人が握るべき仕事の線が引かれていない。この状態を一枚で見えるようにするのが、AI活用マップです。
目的は全業務をAI化することではありません。全業務を4つの区画に置き、区画ごとにAIとの付き合い方を決めることです。
軸は「型の有無」と「間違いの重さ」で決める
マップは縦軸と横軸の2本で決まります。ここで「効果が大きいか」「時間がかかるか」を軸にすると失敗します。効果や時間は測ってみないと分からず、しかも社内で意見が割れるからです。
私が勧める軸は次の2つです。
- 横軸「型があるか」: 毎回ほぼ同じ手順・同じ形式で終わる仕事か、相手や状況で毎回変わる仕事か
- 縦軸「間違いの重さ」: 誤りがあっても直せば済むか、お金・信用・安全に響くか
この2本を選ぶ理由は、どちらも現場の人がその場で答えられるからです。「先週のこの仕事、先々週と同じ手順だったか」「間違えたら誰にどんな迷惑がかかるか」は、測定なしで判断できます。軸は、測るものではなく思い出せるもので決めるのが小さな会社の鉄則です。
4つの象限と、それぞれのAIとの付き合い方
道の駅・直売所の業務を例に置くと、次のようになります。
| 象限 | 業務の例 | AIとの付き合い方 |
|---|---|---|
| 型あり×軽い | 日報の整形、SNS投稿の下書き、POPの文案、問い合わせへの一次返信案 | 任せる。人は最後に目を通すだけ |
| 型あり×重い | 出荷者への支払明細、請求書、出荷依頼の連絡文、営業時間の告知 | AIが下書き、人が確認して送る。確認項目は紙に固定 |
| 型なし×軽い | イベント企画、新商品のアイデア、来期の売り場構成 | 相談相手にする。案を出させて人が選ぶ |
| 型なし×重い | クレームへの最終回答、出荷者との単価交渉、採用の可否、事故対応 | 人が担う。AIは資料集めと下調べまで |
進める順番も、このマップで決まります。まず「型あり×軽い」で任せる経験を積み、確認の勘所が分かってから「型あり×重い」に下書きを広げる。左側の2つは「相談」と「人が担う」で固定し、無理に右へ動かさない。この順番にする理由は、型のある仕事はAIの得意領域で答え合わせが速く、失敗しても直せるからです。
もう1つの効用は、社内ルールが自動的に決まることです。「型なし×重い」に置いた仕事は、そもそもAIに相談内容を入力しない。「型あり×重い」は、誰が最後に確認するかを決めないと始めない。マップがあれば、禁止事項を一から書き起こす必要がなくなります。
マップの作り方は3ステップ
- 1週間の仕事を書き出す。 部署ごとに1人10〜20行。「レジ締め」「出荷者へ電話」くらいの粒度で、付箋1枚に1つ書きます。
- 2つの問いで置く。 「先週と同じ手順だったか」「間違えたら直せるか」。迷ったら「重い」側、「型なし」側に置きます。
- 象限ごとに「誰が最後に見るか」を決める。 任せる=本人、下書き+承認=責任者、相談=本人、人が担う=AI不使用。この1行が、そのままAIの運用ルールになります。
ここで気をつけたいのは、業務名ではなく作業の単位で書くことです。「クレーム対応」は1つの業務に見えますが、内容の記録と分類は「型あり×軽い」、回答の判断は「型なし×重い」に分かれます。ひとまとめにすると重い側に引きずられ、任せられる部分まで人が抱え続けることになります。
現場でよくある判断ミス3つ
1. 全部を「重い」側に置いてしまう。 責任感の強い人ほど、自分の仕事はすべて重いと感じます。すると何も任せられません。「間違えたら誰かが困るか」ではなく「間違えたら直せるか」で問い直すと、半分は下に降りてきます。
2. 「型がある」と思い込む。 担当者の頭の中で毎回微調整している仕事は、本人には型があるように見えます。マニュアルなしで別の人が同じ結果を出せるかを確かめ、出せないなら左側に置きます。ここを誤ると、AIに任せた途端に品質が落ちます。
3. 作って終わりにする。 業務もAIにできることも半年で変わります。とくに「型なし×軽い」に置いた仕事は、繰り返すうちに型ができて右へ動きます。四半期に一度、付箋の移動を見る時間を15分とるだけで、マップは生き続けます。
明日やれる一歩
自分の1週間分の仕事を10行、付箋に書いて、十字を引いた紙の上に置いてみてください。全社分でなく、自分の分だけで構いません。右下の「型あり×軽い」に置いた付箋のうち、いちばん枚数が多い1つが、明日AIに下書きさせる仕事です。
1人分のマップができたら、次の朝礼で見せてください。「自分はここに置く」と各自が付箋を動かし始めた時点で、会社のAI活用マップは半分できています。