「AIに校正させれば安心」が危ない理由

チラシやお知らせ、商品説明の誤字脱字を、AIに見てもらう会社が増えました。AIは誤字脱字や変換ミス、表記ゆれを拾うのが得意です。長い文章でも疲れず、読み飛ばしもしません。

一方で、AIには苦手な誤りがあります。固有名詞と数字です。地名や商品名、電話番号、営業時間、価格は、AIにとって「正しい値」を知りようがない情報です。それどころか、見慣れない表記を一般的な表記に寄せて直してしまうことがあります。商品名をあえてひらがなにしていたのに漢字に直される、地元の呼び名が標準的な地名に置き換わる、といった具合です。

つまり、AIが得意なのは「形の誤り」、人が担うべきなのは「中身の誤り」です。この境目を先に決めておかないと、AIが直した文章をまた人が最初から読み直すことになり、時間は減りません。二段構えとは、この境目で仕事を分ける設計のことです。

一段目はAI、二段目は人。何を誰が見るか

役割分担を表にすると次のようになります。

見る項目 AI(一段目) 人(二段目)
誤字脱字・変換ミス 得意。長文でも見落としが少ない 読み飛ばしやすい
表記ゆれ(お問い合わせ/お問合せ) 得意。ルールを渡せば統一案を出す 気づきにくい
助詞の抜け・文のねじれ・二重敬語 得意 声に出して読めば気づく
固有名詞(地名・商品名・人名) 苦手。別の表記に直すことがある 元資料と突き合わせて確認
数字・日付・曜日・電話番号・価格 苦手。正しい値を知らない 元資料と突き合わせて確認
あえて崩した表記・方言・キャッチコピー 苦手。標準的な表現に直してしまう 意図を知る人が判断

上の3行はAIに任せ、下の3行は人が持つ。この線引きが二段構えの土台です。事実関係の確認は9月の記事「AI文章の事実確認を5分で終わらせる」、金額書類は「AIで作った請求書の数字ミスを防ぐ」で扱ったので、ここでは文章の校正に絞ります。

図1: 原稿を一段目のAIが「形の誤り」の指摘と要確認表に分け、二段目の人が「中身」を元資料と突き合わせてから公開する二段構えの流れ

一段目の設計。AIには「直す」ではなく「指摘だけ」を頼む

一段目でいちばん大事な判断は、AIに本文を書き換えさせないことです。「校正して」と頼むと、AIは直した完成文を返してきます。すると、どこを直したのかが分からず、人は結局全文を読み直すことになります。二段目が全文読み直しになった時点で、二段構えの意味はなくなります。

頼み方はこうです。

「次の文章の誤字脱字・変換ミス・表記ゆれを指摘してください。本文は書き換えず、『元の表記/修正案/理由』の表で出してください。固有名詞と数字は、疑わしくても直さずに『要確認』として別の表にまとめてください。」

このプロンプトには二つの働きがあります。一つは、直す箇所が表になるので、人は表を見て採用・不採用を決めるだけで済むこと。もう一つは、固有名詞と数字の「要確認」表が、そのまま二段目のチェックリストになることです。AIに苦手なものを直させるのではなく、苦手なものを抜き出させる。これが一段目と二段目のつなぎ目になります。

社内の表記ルールがあるなら、先に渡します。「お客様で統一」「商品名はひらがな」「電話番号はハイフン区切り」の3行程度で十分です。ルールがないと、AIは一般的な表記に寄せるため、意図した表記まで指摘に混ざります。

二段目の設計。人は全文を読まず「要確認」だけを元資料と突き合わせる

二段目の人の仕事は、要確認表に挙がった項目を、元資料と突き合わせることです。見る項目は5つに固定します。

  1. 地名・施設名・商品名・人名
  2. 日付と曜日の組み合わせ
  3. 電話番号・住所・URL
  4. 価格と税込・税別の表記
  5. あえて崩した表記やキャッチコピーが直されていないか

突き合わせ先も決めておきます。日付はカレンダー、価格は最新の料金表、電話番号は自社サイトや名刺、商品名は商品台帳。「記憶で確認」を認めないのが要点です。道の駅の秋のイベント告知に「10月4日(日)」とあれば、AIは曜日の誤りを指摘できないことが多い。人がカレンダーを開けば10秒で終わります。

担当は、書いた本人以外にします。本人は自分の文章を「読んだつもり」で通してしまうからです。5項目に絞ってあれば、他部署の人でも10分で終わります。

現場でよくある判断ミス3つ

1. AIの完成文をそのまま出す。 直した後の文を読まずに公開すると、意図的な表記や地元の呼び名が消えます。一段目は「指摘だけ」に固定します。

2. 二段目でも全文を読む。 念のためと全文を読み直すと、時間は導入前と変わりません。二段目は要確認表の5項目だけ。全文を読みたいなら、一段目の表で採用を判断するときに1回で済ませます。

3. 順番を逆にする。 人が先に固有名詞を確認し、あとからAIに整えさせると、確認済みの表記をAIが書き換えることがあります。順番はAIが先、人が最後で固定し、人の確認のあとにAIを通さないと決めておきます。

図2: AIの完成文をそのまま出す、二段目でも全文を読む、順番を逆にする、の3つの判断ミスとそれぞれの対策

明日やれる一歩

直近で出したお知らせ文を1本選び、上の「指摘だけ」プロンプトで通してみてください。出てきた要確認表を見て、5項目のうち何が挙がったかを確かめる。それだけで、自社の文章でAIが苦手な箇所がどこに集まるかが分かります。

要確認表が出たら、それを印刷して、書いた本人以外の人に渡してください。元資料と突き合わせて丸をつけて戻す。この往復を一度やれば、二段構えの型は社内に残ります。