「どのツールがいいですか」から始まる相談

AI導入の相談は、たいてい「どのツールを入れればいいですか」という質問から始まります。ですが、この順番で進めた導入は行き詰まりやすいのです。理由ははっきりしていて、ツールは仕事を速くしてくれますが、要らない仕事を消してはくれないからです。

たとえば、作った本人以外は誰も読んでいない月次報告書があるとします。これをAIで自動作成できるようにすれば、作業時間は確かに減ります。ただそのかわり、月額費用と「AIの出力を確認する手間」が新しく増え、誰も読まない書類がこれまでより速く量産されるようになります。無駄な業務にAIを当てると、できあがるのは「速く回る無駄」です。

引っ越しにたとえるなら、荷物を減らさずに大きいトラックを手配するようなものです。先にやるべきは荷物の仕分けで、トラックの車種選びはその後で間に合います。

図1: ツールが先だと無駄ごと速くなり、仕分けが先だと残した業務にだけ費用と手間を使える

仕分けの型は「やめる・減らす・任せる・残す」の順番

業務の仕分けは、次の4分類を上から順に当てはめていきます。この順番自体に意味があります。

分類 見分ける問い 現場の例
① やめる 結果を誰が使っているか、名前を言えるか 誰も読まない日報、慣習だけで続く報告書
② 減らす・まとめる 同じ情報を2回書いていないか。毎日でなく週1回でよくないか 手書き売上メモとExcelの二重転記
③ AIに任せる 型があり、間違いに人が気づけるか 案内文の下書き、アンケートの分類
④ 人が残す 判断・責任・相手との関係が仕事の本体か 仕入れの判断、生産者とのやりとり

「やめる」を最初に置くのは、下の工程ほど手間とお金がかかるからです。やめられれば効果は満点でコストはゼロ。一方「AIに任せる」は、月額費用と確認の手間をこれから払い続ける選択です。だからAIは、仕分けを通り抜けて「残す価値がある」と確かめた業務にだけ使います。

道の駅や直売所でよく見かけるのは②です。売り場の手書きメモを事務所でExcelに転記し、月報のためにさらに別の様式へ写す。ここにAIを入れて転記を速くするより、様式を一つに揃えて転記そのものを消すほうが早く、間違いも起きません。

現場でよくある判断ミス3つ

一つ目は「忙しい業務から順にAI化する」ことです。忙しさの原因が無駄な工程にあるなら、AI化はその無駄を仕組みとして固定してしまいます。順番を決めるのは忙しさではなく、仕分けの結果です。

二つ目は「『やめる』を誰も決められない」ことです。前の担当者が始めた業務は、要らないと薄々分かっていても、止めようとは言い出しにくいものです。その結果、やめる候補まで全部が「AIに任せる」へ流れ込み、ツールと月額費用だけが増えていきます。

三つ目は「やめる=永久にやめる、と重く考える」ことです。実際には「1カ月止めて、困る人が出るか様子を見る」で十分です。困る人が現れたら戻せばよく、現れなければそのまま消せます。やめる判断は、試せる判断なのです。

図2: 現場でよくある判断ミス3つと、それぞれの直し方

AIを検討した会社ほど、業務が減る

ここで付け加えたい独自の視点があります。「AI導入の検討」そのものが、業務を減らす道具になるということです。

AIに任せたい業務を書き出してもらうと、経験上、リストの2〜3割は、よく見れば「そもそもやめられる業務」です。普段は棚卸しの機会がないから残っていただけで、AI検討という外からのきっかけが入ったとたん、「これ、そもそも要りますか」と口に出せるようになります。やめる話はどうしても気まずいものですが、「AI導入の整理のため」という理由がつけば、誰のせいにもせず業務を降ろせます。仮にツール導入まで進まなくても、仕分けだけで時間が浮いたなら、その検討は成功と呼んでいいはずです。

観光や6次産業の現場は、人が入れ替わりながら業務が静かに積み重なってきた場所です。ツールを増やす前に一度荷物を降ろす価値は、大きな会社よりむしろ大きいと感じています。

明日やれる一歩

昨日やった業務を10個、紙に箇条書きしてください。そして各行の横に「この結果を誰が使っているか」を書き足します。名前が書けない業務が「やめる候補」、同じ情報を2回書いている業務が「まとめる候補」です。AIツールの検索を始めるのは、この紙の上で業務が減ってからでも遅くありません。